蝉しぐれ

Semi Shigure
2005/日
監督/黒土三男
出演/市川染五郎 木村佳乃 今田耕治
    ふかわりょう 緒方拳 原田美枝子
★★★

20年間ひとりの人を思い続けて‥
江戸時代、東北の小藩「海坂藩」の下級武士、牧助左衛門(緒方拳)を養父に持つ牧文四郎(石田卓也・市川染五郎)は父を尊敬し憧れていた。隣家の幼なじみ、ふく(佐津川愛見・木村佳乃)に淡い恋心を抱きながら、親友小和田逸平(ふかわりょう)、島崎与之助(今田耕治)と共に学問と剣術に励む毎日。しかし父が殿の世継問題で切腹を命じられ、文四郎の生活に異変が起きる。ふくは殿に見初められ江戸で暮らすことになり、二人は言葉を交わすこともなく別れるが、ずっとふくを思い続ける文四郎は身を挺してふくを守り続けます。

権力争いや戦いの物語は苦手ですが、友人の勧めもありましたし、20年人を思い続けたことはありますか?のコピーに惹かれて観ました。前半は山形県鶴岡市ののどかな山村のだだ茶豆畑、生垣、集落、武家屋敷を背景に、少年文四郎とふく、親友達、両親の生活が美しく叙情的に描かれ見応えがありました。ふくの文四郎への淡い思いを、子役のふくが清楚に演じて素晴らしかったです。心で思っていても言葉にするのもためらうような時代ですが、つつましさや恥じらい、深々としたおじぎの姿は日本女性の奥ゆかしさ、美しさを感じます。父の亡骸を大八車で運ぶ文四郎が坂道で運べなくて何回も何回も挑戦していると、ふくが走ってきて大八車を一緒に押してくれるシーンはとても感動的でした。

文四郎は親友小和田逸平と殿の別邸で大変な大斬りを繰り広げるのは、ふくの子供をさらってふくの身を守るため、全てふくを思い命を賭けて行ったこと。まさに親が子供を守るような無償の愛を感じずにはいられないです。文四郎は長く独身生活を送ることになりますが、それは彼の心の中にはずっと彼女だけが生き続けていた証ですね。最後に長い年月を経て再会した時、文四郎は彼女を‘ふく’と呼び、ふくは‘文四郎さんと私の結婚の道はなかったのでしょうか?’と告白するシーンは圧巻です。山形の農村の風景はまるでミレーの‘落ち穂拾い’を思わせるように絵画的で美しいです。加藤武さん、大滝秀二さんの名演が光っています。作家藤沢周平氏が日本人の気高さを淡々とした語り口で描いて日本の美を再確認できました。


めし

1951/日
監督/成瀬巳喜男
出演/原節子 上原謙 島崎雪子
    杉村春子 小林圭樹
★★★★

倦怠期を迎えた夫婦
結婚5年目、大阪に住んで3年目の倦怠期の初之輔(上原謙)と三千代(原節子)。初之輔の姪、里子(島崎雪子)が夫婦の家に泊りに来てから、三千代は夫と里子が仲良くするのが嫌で東京の実家に帰ってしまいます。手紙を出しながらもいっこうに帰る様子もなく時が過ぎます。やがて東京出張の折に初之輔が会いに来ますが‥

1951年の作品なので終戦後のつましい庶民の生活が伺えます。狭い炊事場、脚の低いちゃぶ台、質素なお鍋やお茶碗、洗濯板など‥こんな不便な中で主婦は必死で家事をこなしていたのですね。三千代は毎日毎日、お鍋でお米を研ぎ続けていたら家事がいやになる気持ちも分かりますね。当時は楽しみが映画やお芝居くらいなので、今より倦怠期が早く訪れるのもうなづけますよ。今は便利になり自由時間も楽しめるから、倦怠期も感じないで過ごせる良い時代になりました。それでも現在よりはるかに素晴らしいと思ったのは近所付き合いです。三千代が不在と聞くと、隣の奥様はお料理を持って来てくれ、近所のおばさんは洗濯物の心配をしてくれ、三千代の友人が様子を見に来てくれる‥こんなことは今ではありえないことですね。

三千代は実家に帰った日は1日中寝ていても、母(杉村春子さん素敵!)が娘を見る眼差しが優しくていいですね〜。義理の弟信三(小林圭樹さん若いです!)には‘何でもお母さんに頼らないで自分でしなさい’とはっきり言われてだんだん居づらくなります。働きたいという三千代も夫を亡くし子供を抱えて苦労している旧友の姿を見ると動揺したり。結局初之輔が迎えに来るとやはり内心嬉しくて、お店で一緒にビールを飲んで‘東京に来て2500円も使っちゃった’なんて楽しそうに話す三千代です。しばらく離れていると、また新鮮な気持ちで夫と向き合えて単調な毎日を頑張れるのかもしれない。‘毎日の平凡な暮らしこそ女の幸せ’と気づく三千代の顔は少し影はあっても安堵に包まれています。上原謙さんは飄々とした夫役がとても良かったし、美しさと上品さを兼ね備えた原節子さんの優しい笑顔にとても癒されました。



理想の恋人.com

Must Love Dogs
2005/米
監督/ゲイリー・デイビッド・ゴールド・バーグ
出演/ダイアン・レイン ジョン・キューザック
   ダーモット・マローニー ストッカード・チャニング
   クリストファー・プラマー エリザベス・パーキンス
★★★

ネットで探す理想の恋人
サラ・ノーラン(ダイアン・レイン)は30代の幼稚園の先生。8ヶ月前に離婚して失意の日々を過ごしている。そんな彼女を家族たちは心配で仕方がなく、姉キャロルと妹クリスティンはインターネットで恋人募集サイトにサラを勝手に登録してしまい、お陰で様々な相手とデートをするはめに‥。生涯を託せる本物の恋人は見つかる?

タイトルにドット・コムが付いているので、まさに今はやりのネットデートで恋人を探すと言うお話です。離婚をすると周囲が独身のサラを気遣うのは、アメリカはカップルで幸せという観念が強いのですね。ネットデートは現実には危険で怖いですが、映画はラブコメなので危険な香りは全然なくて、サラは多くの男性とデートを重ねます。レインの次々に変わるヘヤースタイルとドレスは必見!奇人、変人、もっと若いのかと思ったなんて失礼な人もいるけれど、なかなか理想の人は現れません。サラの父ビル(クリストファー・プラマー)も独り身なので、デートの相手は父親だったと言う一幕もあったり。でもやっと不思議な魅力のジェイク・アンダーソン(ジョン・キューザック)と出会い、サラは惹かれるものを感じます。幼稚園の教え子の父親ボブ・モナー(ダーモッド・マローニー)も優しくてチャーミングなので気になる存在。自分にとって本物の相手はどちらか迷うサラです。

アメリカの中流家庭の暖かい家族の絆がとても心地良く、ストーリーはB・Jの日記に似ていますが、俳優さんやドラマの展開が大人の落ち着きがあるので安心して観ることができました。30代も後半になると異性と出会うチャンスも少なくなりがち‥。でも自分を磨いて(心も体も)、男性を見る目を養って毎日を過ごしていれば、きっと自分に相応しい相手は見つかると信じたいですね。ジェイクは洗練されているとは言えないけれど、ピュアで直球勝負の男性です。口下手だけど誠実で安心して生涯を託せる男性。自分にとって本物の恋と思ったら、自分の気持ちに正直に行動すること‥これしかないですね!ジョン・キューザックはまさにはまり役でした。ビルの恋人役ストッカード・チャニングは「グリース」の熱演が忘れられないし、クリストファー・プラマーもトラップ大佐の頃と変わらない素敵な紳士。子役の頃から活躍しているダイアン・レインは古き良き時代の善良さが感じられる女優さんですね。華やかさよりも内面を素直に表現できて、芯の強さを秘めながらも癒される女優さんは今とても貴重だと思います。


ALWAYS 三丁目の夕日

2005/日
監督/山崎貴
出演/吉岡秀隆 堤真一 小雪
    薬師丸ひろ子 掘北真希 
    須賀健太 小清水一揮
★★★★

永遠なれ!三丁目の夕日
昭和33年、東京下町の夕日町の住民、自動車工場鈴木オートの父親、則文(堤真一)と母親、トモエ(薬師丸ひろ子)と小学生の息子、一平(小清水一揮)の家に青森から集団就職で星野六子(掘北真希)が上京してくる。向いには駄菓子屋で小説家志望の茶川竜之介(吉岡秀隆)が住んでいる。ある日茶川が思いを寄せている飲屋のおかみ、ヒロミ(小雪)のところに知り合いから頼まれた身寄りのない少年、古行淳之介(須賀健太)がやってくることに‥。

今40代以上の人には、昭和33年頃の東京の街並が再現され、個性と人情あふれる住民たちの生活が描かれるているこの作品を、ノスタルジックな気持ちで観られること受けあいですね。冒頭、少年が飛ばすグライダーや、当時大流行したフラフープ、遊び場に置いてあるドラム缶など幼い頃の生活が蘇って心が熱くなりました。物が豊かでなかったから、自分たちで工夫をして遊ぶ物を創る喜びがあったし、近所付き合いにも家族のような親しみや優しさがあったように思います。駄菓子屋、八百屋のおじさん、本屋のお姉さんと顔なじみになって子供はよく声をかけてもらったものです。人々がお金よりも愛情を大切に生きていて、世知辛い世の中ではなかったのですね。戦争で心に傷を負っているお医者さんの詫間先生、たばこ屋のキンおばあちゃんも独りの生活で淋しいけれど頑張って生きているし、茶川さんも作家を夢見て一生懸命。そんな様々な事情を抱えて暮らしている夕日町三丁目の住民達にも近代文明の波が押し寄せます。テレビや電気冷蔵庫の登場です。テレビは近所の人や友人、知人みんなで一緒に楽しんだものです。

心に残るシーンはたくさんありましたが、指輪を贈るシーンは暖かくていいですね。茶川さんが淳之介くんと暮らし始めて少しずつ本当の親子のような愛情が芽生えるお話も感動しました。鈴木オートの父親は‘地震 雷 火事 親父’を地でいくお父さんっぷりが怖いけど、六子ちゃんに里帰りの切符を買ってあげる優しい面もあるし、良妻賢母の母親のトモエは夫を影で支える当時の典型的な母親像が素敵です。一平くんと淳之介くんの幼い友情も泣けましたね。子役ふたりの上手以上に味のある演技は素晴らしかったですよ。役名も遊び心があって楽しいです。CGで再現された東京タワー、都電や蒸気機関車、上野駅なども自然に映像の中に溶け込んでいて違和感はなかったですね。ひとつひとつのエピソードは特に目新しいものではないけれど、現代人が忘れかけているものを思い起こさせてくれる心暖まるエピソードに心地良い涙を流すことができました。言葉で説明されるよりは是非映画を観て、人情あふれる物語に感動して涙して頂きたいそんな作品ですね。


イン・ハー・シューズ

IN HER SHOES
2005/米
監督/カーティス・ハンソン
出演/キャメロン・ディアス トニ・コレット
    シャーリー・マクレーン 
    マーク・フォイアスタイン
★★★★

自分だけの靴を見つける
ローズ(トニ・コレット)とマギー(キャメロン・ディアス)は姉妹だけれど、共通点と言えば靴のサイズと子供時代の悲しい思い出だけ。法律事務所で弁護士として働くローズは自立できないマギーと仕方なく同居をしている。自分に合った仕事が見つけられないマギーはローズの恋人ジムと良い仲になったことから、姉妹の決裂は決定的になってしまう。

容貌のコンプレックスをバネに努力して自立するローズとルックスやスタイルは良いけれど難読症など能力に自信のないマギー。世の中には彼女たちと同じ様な悩みを抱えている人はたくさんいると思います。コンプレックスがない人なんているのでしょうか。いつの時代にも人が生きていく上でつきまとうものかもしれないから、どうやってコンプレックスと上手に向き合っていくかを考えさせてくれる素敵な作品です。現実には外見よりも内面の美しさを大事にする男性も多いので、ローズのように幸せを掴んでいる女性は多いと思います。特別な美貌や才能がなくても優しさや思いやりがあれば、男性から頼られ大切にされている女性も多いでしょう。自分の居場所が見つけられないマギーも、老人ホームの大学教授が言ってくれた‘君は大丈夫、聡明だよ’との励ましで自信が持てるのですから、その一言がどんなに大切かが分かりますね。何も持っていない人なんてきっといないでしょうから。

二人の過去にも問題があって暗い気持ちになりましたが、どこの家庭にも人に知られたくない秘密の部分を、カーティス監督は重くならないでさりげなく描いていて上手です。シャーリー・マクレーンは、ローズとマギーの母親との確執が浮き彫りになり、今まで疎遠になっていた家族たちと和解ができ、二人を幸せに導く過程を自然に演じてさすが大御所ですね。マギーに適切なアドバイスを与えて、正しく導けるのは家族の愛情があるからこそ。血は争えないですよ。彼女の靴で結婚式をあげて素敵ですが、アメリカは生活様式から靴も衣装の一部なので、映画のタイトルの意味も理解できますね。それにしても老人ホームがきれい!こんなに心地良い施設なら入ってもいいな(笑)最後に結婚式でマギーがE.E.カミングスの詩を読むシーンは感動して涙が出ました。老人ホームで自分に合った生き方を見つけ、コンプレックスを克服して自分に誇りが持てたマギーの美しさがとても印象的でした。