ユナイテッド93
UNITED93/2006・米
監督/ポール・グリーングラス
出演/J.J.ジョンソン ゲイリー・コモック
    デイヴィッド・アラン・ブッシュ
    リチャード・ベキンズ ハリド・ハブラダ
☆☆☆☆☆

ユナイテッド93の悲劇
2001年9月11日、アメリカ合衆国を震撼させた事件が起きた。ハイジャックされた航空機4機のうち、ボストンからロサンゼルスに向かったアメリカン航空11便とユナイテッド航空175便は世界貿易センタービルに激突、ワシントンD.C.からロサンゼルス行のアメリカン航空77便はペンタゴンに激突した。NYからサンフランシスコへ飛び立ったユナイテッド航空93便の乗客はホワイトハウスに激突するのを阻止するために勇気ある行動に出る。9.11当日の機内の様子がドキュメンタリータッチで再現される。

9.11のテロのニュースはを見た時の衝撃は今でもはっきりと覚えています。ワールド・トレード・センターに登った経験はないですが、NYマンハッタンの象徴としてのツインタワーは美しかったですね。超高層ビルに2機が激突した映像は映画の1シーンのようでとても現実のものとは思えませんでした。この映画でハイジャック犯4人と乗客、乗務員40人の行動が詳しく描かれているので、3機ほど強く印象になかった93便の悲劇を再確認できました。生存者はひとりもいないけれど、乗客の何名かが携帯電話で機内の様子を知らせてきたので、その話をもとにして再現されたのでしょう。最初は何が起きたか分からない乗客たちも、コックピットから緊迫した様子が伝わってきて大変な事態を察知した彼らの気持ちを考えると胸が締めつけられる思いです。友人に会う人、会議に出席する人、旅行を楽しむ人、帰宅途中の人、みんな家族、友人に愛され、人生を楽しみ、社会に奉仕して将来のあった若者たちがどうしてこのような悲劇に巻き込まれなければいけなかったのでしょうか。

恐怖にさらされながらも残された家族を思い、情報を交換しながら自分たちの取るべき行動を相談する乗客たちの姿は感動以上のものがあります。彼らが勇気ある行動を取ったことでホワイトハウスへの激突をまぬがれたことをこの映画で初めて知りました。乗客の中にパイロットがいたので、何とか助かって欲しかったです。これ以上犠牲者を出すまいとコックピットに突入していくシーンはすさまじくて涙が出ました。4人のハイジャック犯の中には20代位の若者もいて、冷酷非情なテロリストではなく、我々と同じように死への恐怖に怯える普通の人間として描かれていたのが印象的でした。イスラム教徒の信仰心から出た行動としても、暴力行為は絶対に許せないこと、信仰は戦うことでなく生かし合うことだと思います。機長役には実際のパイロットや乗務員経験を持つ女優さん、管制官では本物の連邦航空局に働く人々が映画に参加しているので、演技ではないリアル感が出ていたと思います。9.11以降、世界はテロの恐怖にさらされ続けています。今までのように飛行機や列車で安心して海外旅行を楽しむことができない時代になってしまったことがとても悲しいです。

2006.8.12

スーパーマン・リターンズ
SUPERMAN RETURNS
監督/ブライアン・シンガー
出演/ブランドン・ラウス ケイト・ボスワース
    ジェイムズ・マーズデン ケビン・スペイシー
☆☆☆☆

スーパーマンが戻ってきた!
宇宙の旅に出たスーパーマン(ブランドン・ラウス)は5年ぶりに地球の故郷、スモールビルに戻ってきた。宿敵レックス・ルーサー(ケビン・スペイシー)は刑務所を脱出して人類破壊計画を立てていた。永遠の恋人ロイス・レイン(ケイト・ボスワース)は既に婚約者リチャード・ホワイト(ジェイムズ・マーズデン)がいて幼い息子までいる。ショックを隠せないクラーク・ケントだがレックス・ルーサーの容赦ない攻撃に毅然と立ち向かう。

「スーパーマン」T〜Wの大ファンなので、観るのが楽しみでした。冒頭のジョン・ウィリアムズの音楽が流れてくると、今は亡きクリストファー・リーブを思い出し涙が出てしまいました。作品中にもリーブへのオマージュがたくさんありましたが、ブランドンの個性を前面に出すよりはリーブの功績を讃えたいというブライアン・シンガー監督の意向が感じられますね。でも作品は監督色が出ていて好きです。Wの公開から20年も経っているので5年ぶりに地球に戻ってきたという設定はしっくりこないけれど、大都会ではなく彼を育ててくれたケント夫妻の農場に降りたところはスーパーマンの人間味を感じますね。彼は普段はできるだけ目立たないで、事件が起きると人知れず救助に向かう姿はいつ見ても惚れ惚れします。遭難した飛行機を救助したり、ロイス・レインを船から救うシーンなどはCGの発達でよりパワフルになって見応えがありました。スーパーマンが緑の石、クリプナイトに弱いのはTでも描かれていましたが、今回も彼が力尽きたのはクリプナイトのせいで、何とも憎っくきクリプナイトですよ。

ロイス・レインに子供がいるのはUを観てるとすぐに納得できます(笑)この時のロイス役はマーゴ・キダーで、とても活発な女性でしたが、ケイト・ボスワースは少し憂いのある大人しい女性なのでかなり印象が違いますね。レックス・ルーサー役はジーン・ハックマンが楽しそうに悪役を演じてましたが、ケビン・スペイシーの味のある悪役ぶりもさすがですね。彼は善人顔なのであまり怖くないですけど。ジェームズ・マーズデンは若いながらも渋い存在で光ってましたし、クラークの母親のエヴァ・マリー・セイントは「波止場」でマーロン・ブランドと共演しているベテラン女優さんですね。マーロン・ブランドが前作のキャストで唯一出演しているのも嬉しかったです。強くて優しいヒーローはたくさんいるけれど、他の星から地球を救うためにやってきた、宇宙規模に偉大なヒーローはスーパーマンだけです。報酬を求めないその行動はボランティアの精神にあふれているので、アメリカ人が最も好きなヒーロー像ではないでしょうか。

2006.8.19

マッチポイント
Match Point/2005・英
監督/ウディ・アレン
出演/ジョナサン・リース・メイヤーズ
    マシュー・グード ペネロピー・ウィルトン 
    エミリー・モーティマー スカーレット・ヨハンソン
☆☆☆☆ 

人生を決めるのは運?
英国ロンドンに住むアイルランドのプロテニス・プレイヤー、クリス・ウィルトン(ジョナサン・リース・メイヤーズ)はテニスクラブで裕福なトム(マシュー・グード)と親しくなる。オペラ鑑賞の席でトムの妹クロエ(エミリー・モーティマー)と知り合い、結婚をすることに。パーティーの席でクリスはトムの婚約者ノラ(スカーレット・ヨハンソン)と出会う。結婚生活を営みながらもノラの魅力から逃れられないクリスは二重生活を送ることに‥。やがて予想を越えた最後が待っている。

以前は少し難しくて敬遠しがちだったウディ・アレン作品も、この年になって観ると知的でユーモア溢れる人生の機微が感じられ楽しめるようになりました。「アニー・ホール」は知的な会話についていけないところが多かったけれど、「マッチポイント」は二転三転するストーリーにショッキングなラストまでどんどん引き込まれました。どのシーンにも人間の深層心理が織り込まれ、ちょっと不謹慎ですがそれぞれの立場から考えると理解できるような気がします。でも現実には理性で押さえてもっと穏便に解決するでしょうし、あのような最後はあり得ないでしょう?ブラック・ユーモアとして見ると面白いけれど、すっきりはしませんね。幸運に助けられ、幸福な人生を送る人はいるかもしれません。時代や生まれ育った環境、容姿などは自分では決められないし、そこに運、不運はついて回るのも事実です。でも人は努力という素晴らしい能力を神さまから与えられているので、不運を幸運に変えることができるから人生は面白いし価値があるのだと思います。

アレン作品は人間の欲望や願望をユーモラスに描いて面白いですが、この作品もやはり悲喜こもごも人間ドラマが興味深いです。女性としてクロエの気持ち(結婚をすれば子供が欲しい)はすごくよく分かりますね。浮気の代償は大きいというけれど、アレン監督はそこにひねりを入れて、運が強ければどのような艱難辛苦をも乗り越えられることを犯罪をからめて上手に描いてさすがですね。「太陽がいっぱい」「陽のあたる場所」を彷彿とさせてくれます。‘信仰を持つと弱くなる’と言うせりふの真偽は分からないけれど、私は弱さに信仰は働きかけるから人生には不可欠だと思っています。スカーレット・ヨハンソンは女性としての魅力と怖さの両方を上手に演じていましたし、ジョナサン・リース・メイヤーズは容姿や雰囲気がはまり役ですね。エミリー・モーティマーはとても理知的だけど、柔らかな雰囲気の女優さんで素敵です。ロンドンの美しい街並みの中にヴェルディのオペラが響き、作品自体がオペラのような作りなのも素晴らしいですね。それにしてもあの指輪の顛末には驚きました。



2006.9.1

UDON
U
DONうどん/ 2006・日
監督/本広克行
出演/ユースケ・サンタマリア 小西真奈美 
    鈴木京香 木場勝己 
    小日向文世 トータス松本
☆☆☆☆

ソウルフード=讃岐うどん
松井香助(ユースケ・サンタマリア)はコメディアンを志し、単身NYにのり込むが売れずに借金だけが残る。仕方なく故郷の香川県丸亀市の実家、松井製麺所に帰省する。父親の拓富(木場勝己)は冷たいけれど、姉の万理(鈴木京香)や友人たちは彼を温かく迎えてくれる。地元情報誌の編集者、宮川恭子(小西真奈美)と偶然出会った幸助は意気投合して讃岐うどん巡礼を始める。

「UDON」は香川県出身の人なら誰でも郷愁を覚える作品ですが、私もそのひとりです。お茶碗を逆さにしたような美しい讃岐富士を眺める川のほとりにある松井製麺所が舞台になっています。ストーリーは香助の父親のうどんに対する頑固なまでのこだわりと、県内に900軒もあるうどん店巡りを上手に交錯させています。小麦粉と水と塩の分量も天候によって微妙に変えることで、あの独特のこしのあるおうどんを作り続けることができるのですね。香助が父親の作るおうどんに近づくまでの奮闘ぶりを見て、うどん職人さんの苦労がよく分かりました。自分が体験して初めて父親の仕事を誇りに思うことができたのではないでしょうか。うどん巡りを始めたのは借金返済のためですが、美味しいおうどんとの出会いが彼を変えていきます。香助と恭子が山道で迷った時たどり着いたうどん店で食べた釜玉うどんは、ほんとうに美味しそう〜。おばさんの‘食べるんですか?’の讃岐弁が懐かしいな‥。実は故郷では食べたことのないメニューなんですよ(笑)

きつねうどん、かけうどん、天ぷらうどん、釜揚げうどんなどは定番メニューですが、アスパラ天、野菜天、ちくわ天、カレーうどん、梅しょうゆと種々様々なトッピングが楽しめます。何玉かを注文して自分でざるで温めて、トッピングはお好みでというセルフサービスのお店は自分のお腹の空き具合で決められるので人気がありますよ。畑の葱を自分で取ってきたり、卸し金と大根が出てくる超セルフサービスのお店や(村上春樹さんの本でも紹介されてましたね)おうどんにおしょうゆをたっぷりかけて食べたり‥ユニーク過ぎます(笑)香川県は雨が少なく、田畑に引く水不足用に溜池がたくさんありますが、溜池の映像を入れたのは本広監督の故郷への愛情を感じますね。テーマ曲はビゼーのカルメンでしたが、軽麺のシャレかな?幸助は松井製麺所の復活を見届けてNYに再び飛び立っていきますが、故郷での貴重な体験を経て今度こそ成功しますように‥。おそばよりは腹持ちが良く、ご飯よりは腹ごなしが早い(私の勝手な憶測)という微妙な位置のおうどんですが、昼食はもちろん、小腹が空いた時や病気の時、夜食にもおうどんを食べていた私にとってソウルフードは讃岐うどんで決まりです。

2006.9.3

涙そうそう
涙そうそう/2006・日
監督/土井裕泰
出演/妻夫木聡 長澤まさみ 麻生久美子 
    森下愛子 中村達也 小泉今日子
☆☆☆

兄ィニイありがとう
洋太郎(妻夫木聡)とカオル(長澤まさみ)は幼い頃、家庭の事情でふたりだけ残されてしまう。沖縄に住む祖母に育てられた洋太郎とカオル‥。16歳の時、洋太郎は自分の店を持ちたいと沖縄本島に出てくる。やがてカオルも本島の高校に通うことになり、ふたりの共同生活が始まる。

沖縄情緒たっぷりに歌われる夏川りみさんの「涙そうそう」が好きなので早速観て参りました。洋太郎が沖縄で周囲の人たちに愛されながら、生き生きと暮らしている冒頭から、彼の子供時代のシーンがフラッシュバックされます。洋太郎とカオルは兄妹として育つけれど、血は繋がっていないのでふたりの関係はちょっと微妙です。でも男女の恋愛ではなく、洋太郎が親代わりとしてカオルを守り抜く兄妹愛として描かれているところが新鮮でとても好感が持てました。自分の大学進学は諦めてカオルの進学のために毎日一生懸命働く洋太郎の姿は優しさに溢れていますね。こんなに健気に働いても彼には次々と不幸がおそいかかり悲しすぎます。やっと建てたお店が詐欺にあったり、恋人と別れたり‥。それでもいつも笑顔を絶やさなないで頑張るお兄ちゃんです。

いちばん感動したシーンはカオルが洋太郎の家から出て行くときに‘兄ィニイ長い間お世話になりました’と言って深々とおじぎをして去っていくと、洋太郎が鼻をつまんでグッと涙をこらえるシーンです(鼻をつまむと涙が止まるそうです)ラストもとても悲しいけれど、おばぁの言ったせりふが印象的でした。‘人はみんなその人の寿命があるんだよ。だから生きてる時を精一杯生きれば幸せなんだよ’‥と。「ナヴィの恋」にも出演されている沖縄出身の平良とみさんの素敵なメッセージです。妻夫木聡さんの優しいお兄ちゃんは彼の人柄そのままのようで、内面からの自然な笑顔には癒されますね。長澤まさみさんは揺れ動く思春期の女の子を見事に体現していたと思います。沖縄の美しい映像があまりなかったのと、映画として小さくまとまってしまったのが少し残念ですが、森山良子さんが亡き兄を偲んで作った歌詞の意味がドラマに込められていて心暖まる作品に仕上がっていたと思います。沖縄は人情豊かな土地柄だそうですが、大切な人のために頑張るという(私も含めて)現代人が忘れてかけている心を思い起こさせてくれました。

2006.10.7