幸福の黄色いハンカチ   1977 日

監督 山田洋次  出演 高倉健 賠償千恵子 武田鉄也
                桃井かおり 渥美清

北海道の3人旅、ロード・ムービー
失恋の痛手を癒すため、花田欣也(武田鉄也)は新車を購入して北海道の旅に出ます。網走の駅で小川朱美(桃井かおり)と、網走刑務所で刑期を終えた島勇作(高倉健)とは海岸で知り合い3人のロード・ムービーが始まります。でもそれは楽しいというよりは勇作のつらい過去を告白する旅です。途中楽しい(本人は必死)事件を起こしながらも夕張の勇作の家まで無事たどり着くことが出来ます‥。

タイトルだけで幸福になれそうな作品ですね。楽しくて感動できて、ゆったりとしたテイストは私好みです(笑)28年前の作品で、その頃を思い出させてくれるところも嬉しかったですね〜。何気なく知り合った3人がそれぞれ悲しい思い出を秘めてる、でも全然知らない他人同士でも旅をする中でお互い教えられたり、慰め合ったりすることができるのですね。傷ついた者同士だから相手のことも思いやれるのでしょうか。人生は楽しいときもあれば、どうして自分だけこんな不幸にと思う時期もあるけれど、警察署の渡辺課長(渥美清)が良いことを言ってましたね。辛抱して頑張っていれば、またきっといいことがあるよって‥。渥美さんの暖かいキャラはいいですね〜大好きです。

出演者は山田洋次監督ファミリー、寅さんシリーズの顔ぶれが微笑ましいですね。夕張で朱美の後押しがなければ、勇作は家には帰れなかったかもしれません。旅の間に欣也と朱美の厚い友情にずっと支えられたことは勇作にとってこれからの大きな励みになるでしょう。そして人を幸せにすることで、自分たちもほんとうの夫婦愛に目覚めることができたシーンは感動しましたね。もちろんラストの黄色いハンカチのシーンは涙が出てしまいました(笑)誰でも光枝(賠償千恵子)の立場なら、何年でも待つでしょう。好きになった人を諦めることは難しいですから‥。北海道の町並み、雪景色もこの旅にふさわしく美しくて素敵でした。武田さん、桃井さんのコミカルなんだけど、ちゃんと相手を思いやる優しさが心に残りますね。私も邦画のベスト1になりました☆



列車に乗った男   L’HOMME DU TRAIN

2002 仏独伊スイス

監督 パトリス・ルコンド  出演 ジャン・ロシェフォール ジョニー・アリディ

互いの人生に憧れる2人の男の出会い
ミラン(ジョニー・アリディ)は列車の旅の途中頭痛に襲われ、あるさびれた町に降り立ちます。薬店で知り合った初老の男マネスキエ(ジャン・ロシェフォール)はミランを自分の屋敷に招きます。マネスキエは長年フランス語教師として過ごし、ミランはサーカスでスタントマンとして過ごしました。お互いの人生に自分にない憧れを感じたふたりはたわいのない会話を交わしながら過ごすのです。でも3日後には二人共、それぞれ命を賭けた大仕事が待っていました‥。

やっと再見できました!1回目の鑑賞の時はラストの切なさばかりが印象的でしたが、今回はとても味わいがあってやはり心に残る作品だと思いました。マネスキエとミランの対照的とも言える今までの人生の対比が面白いです。大きなお屋敷でピアノを楽しむ静かな毎日のマネスキエとサーカス団員として旅を重ねているミラン。両者の楽しいところがお互いに欲しくてたまらない‥人生は1回限りだから相手の持っているもの全てを得ることは難しいのです。でもだからこそ自分が生きている人生を大切にしたいという気持ちにもなるのですが‥。饒舌なマネスキエと寡黙なミラン、ふたりの名優のせりふと表情が素晴らしいです。深刻な中にもユーモアを入れてる作風もいいですね。

大好きなシーンはマネスキエが‘酒場で飲むなら丸腰で来るんだ’とワイアット・アープの真似をするところ(笑)とても愛されてる名画なんですね。それからショパンとシューマンの比較をして、シューマンの音楽は泣き言をぐずぐず言うけれど、私は弱者を愛するシューマンが好き‥なんて言うせりふも素敵。ミランがパンを買いに行って、‘ほかには?’と聞かれなかったのに‘聞かれたよ’と嘘をつくところも楽しいです。そしてラストの運命の事件がふたり同時に起きるところはやはり何度観ても切ないです。最初観た時はてっきり息を吹き返したと思って心の中で拍手してました。でもそれは夢の中なんですね。とても悲しい‥でもお互いに別な世界で相手の人生を実現できるのならそれは幸せなことかもしれません。


オペレッタ 狸御殿   2005 日

監督 鈴木清順  出演 チャン・ツィイー オダギリ ジョー 薬師丸ひろ子
                平幹二郎 由紀さおり 高橋元太郎

狸と人の道ならぬ恋の豪華時代絵巻!
がらささ城城主、安土桃山(平幹二郎)は、毎日同じ質問を投げかけていました。「生きとして生けるもので一番美しいのは誰じゃ?」すると「安土桃山様でございます」とびるぜん婆々(由紀さおり)は答えていたのですが‥。ある日スープに映し出されたのは城主ではなく彼の世継ぎ雨千代(オダギリ ジョー)の姿でした。怒りの余り実の息子の雨千代を快羅須山に捨てよと命じます。辛うじて安土桃山の罠から逃れた雨千代は、唐の国から狸御殿に招かれている狸姫(チャン・ツィイー)とめぐり逢い、恋におちますが…。

鈴木清順監督の作品を観るのは初めてなので、清順ワールドを楽しむと言うよりは、主演ふたりが好きなのと、タイトルに惹かれて観ました。絢爛豪華な舞台と映像は、能舞台、演劇、絵画、水墨画と何でもありですが、決して強烈でなくほんわかとしたムードでお話が進んでいきます。桜や海、CGも上手く取り入れてどのシーンも綺麗で可愛らしく、衣装や美術のセットも独創的で日本の美が感じられましたね。私にとっての清順ワールドは、一言で言えば‘摩訶不思議な世界’でした。チャン・ツィイーの日本語のせりふがとてもキュート!雨千代との二重唱「古今和歌」はとても良かったですが、やはり由紀さおりの「びるぜん婆々のマイウェイ」は素晴らしかったですね。

そしてあの美空ひばりがCGで蘇り、「極楽蛙の観音力」を歌うシーンは圧巻と言うよりは、神々しいまでの美しさなんですね。家老狸の高橋元太郎、乳母の薬師丸ひろ子は美声なのでキャスティングされたのでしょう。そして極めつけは「極楽ガエル」の泣き声です。とっても癒されましたよ(笑)オペレッタとはオペラのように悲劇の物語でなく、歌、ダンス、お芝居で構成されているハッピーエンドの音楽劇なので、ちょっと怖いシーンはあるものの、老若男女安心して楽しめる、お子様にもお勧めのミュージカルですね。「狸御殿」は日本映画黄金期に宮城千賀子、市川雷蔵などスターを起用して30本近くも作られているそうです。どれか1作品でも観てみたいですっ!


ミリオンダラー・ベイビー   MILLION DOLLAR BABY

2004 米

監督 クリント・イーストウッド  
 

家族を超えた父と娘のラブ・ストーリー
ロサンゼルスのボクシングジム、ヒット・ピットの老トレーナー、フランキー(クリント・イーストウッド)に弟子入りの志願をしたマギー(ヒラリー・スワンク)。‘女性は取らない’と断られてもジムに通い続けるマギーを見てフランキーはとうとう彼女のコーチを引き受ることに。彼の指導のもと、腕を磨いたマギーは試合を勝ち進み遂にチャンピオンを目指すまでに成長します。そしてふたりの間には実の父と娘のような絆が芽生え始めるのですが、そんな幸福もつかの間、ふたりに過酷な悲劇が待ち受けていました。

ボクサーの映画なので観るのはためらったのですが、ボクシングではなくて人間の尊厳がテーマになっている作品なので観て良かったと思います。(ボクシングファンの方、ごめんなさい) リングでのファイティングシーンは多いけれど、ヒラリー・スワンクの力強い中にも時折見せる笑顔がチャーミングなので救われましたね。そしてフランキーと23年の付き合いの元ボクサー、スクラップ(モーガン・フリーマン)の優しく包み込むようなナレーションも悲劇の作品の救いになっていると思います。前半はチャンピオンの夢の実現という孤独な戦いは「ロッキー」と似ていますが、過酷なトレーニングや試合のシーンが重要ではなく、フランキーとマギーの心を通いあわせる描写が繊細に描かれていたのが印象的でした。甘酸っぱいレモンパイはまるでふたりの気持ちを表してるみたい。後半は栄光と希望の人生の暗転があまりに残酷で悲しむことも忘れるほどでした。スポーツは危険といつも隣り合わせなんですね。

フランキーもマギーも家族を持ちながら疎遠になっているという共通点がお互いを強く求めた要因なのでしょうが、だからこそやっと大切な存在が見つかった矢先の事故は悲しいです。‘モ・シュクラ’の言葉が切なく響きます。この辺でやめておけば良いと思っても、とことんやってしまうのが人間の悲しい業なのかもしれません。でもラストの救いは彼女が全てを失っても、フランキーの愛だけは失わなかったことが、マギーが幸せな人生をまっとうできた証なので、観てる側も何故か安堵感を感じてしまいました。フランキーは淋しさや悩みを教会や神父さまに求めても救われなかったかと思うと、信仰の無力さを感じずにはいられません。本人が望まない延命治療はしない方が良いと思う一方、現実には死の床にあっても信仰で救われた人のお話はたくさん聞いています。どんな人でも愛は不可欠なもの。憎しみは悲しいけれど、生きていく中で孤独ほど淋しいことはないとこの作品を観て痛感しました。このシンプルなストーリーが重厚な作品に仕上がったのは、イーストウッド監督の力量とイーストウッド、ヒラリー、モーガンの素晴らしい演技の賜物ですね。


出演 クリント・イーストウッド ヒラリー・スワンク
    モーガン・フリーマン