品格という言葉がブームになって久しいですが、ドラマや本のタイトルにもよく使われていますね。坂東眞理子さんの「女性の品格」などもべストセラーになっています。著者は外国で度々教鞭を執られているので、西洋文化を礼賛されている方だと思っていましたが、日本文化に大変な誇りを持っておられるのには少し驚きました。特に読書と数学を学ぶことの大切さを強調されています。ご自身が数学者でご両親が作家なのでまっとうなご意見だとは思います。中世の頃は日本文学はヨーロッパよりもはるかに量も質も上であったそうです。万葉集、源氏物語、徒然草など優れた書物は数多くあり、また数学のレベルも日本は西洋よりもずっと高かったそうです。タイトルは硬いですが、分かり易い文章で、ユーモアは必ず奥様とのエピソードが語られています。かなりの愛妻家ですね。以下は印象に残った箇所です。

英語教育は大切ですが、国際人として通用するためにはまず国語をしっかり学んで、表現する手段よりも、表現する内容を整える方が大事です。日本人の美に対する感受性はとても繊細で、西洋人は虫の鳴き声は雑音でしかないけれど、日本人は虫の音に音楽を聞き、短歌や俳句を詠みます。富士山、桜、紅葉など自然の美しさに人生を投影してきた美的情緒を持つ日本人が、なぜ戦争に負けたのか不思議です。日本が美徳としているのは、武士道精神で、藤原氏が最も好きなのは新渡戸稲造の武士道です。「敗者への共感」「劣者への同情」「弱者への愛情」ゆえに根本にある精神は「卑怯なことはいけない」「強い者は弱い者をやっつけてはいけない」ということです。国家には「惻隠」(そくいん)こそが必要です。弱者、敗者、虐げられた者への思いやりです。平等という北風ではなく、惻隠という太陽をもってすれば、差別などはなくなります。

人間が生きる愛には4つあります。「家族愛」「郷土愛」「祖国愛」「人類愛」です。人類愛を最初に教えるのは間違っています。まず家族を愛し、郷土を愛し、祖国を愛するです。ガーナ人がガーナを、韓国人が韓国を愛さなければ、可笑しい。青森出身の人が青森を、沖縄出身の人が沖縄を愛するのは当然です。外国に行って自分の祖国を愛していないと思われたら、絶対つきあってもらえません。21世紀はローカリズムの時代なので、各国、各民族、各地方に生まれ美しく花開いた文化や伝統を大切にしなければいけません。情緒は、能率、効率よりもはるかに価値が高いのです。日本は昔から美しい自然、神や仏を敬う心、金銭を低く見る風土があります。日本の品格のある武士道精神は世界の誇りと言えます。この素晴らしい国家の品格を保ち続け、混沌とした世界を守れるのは日本人しかいないのです。

春のワルツ (全20話)

監督 ユン・ソクホ
出演 ソ・ドヨン ハン・ヒョジュ ダニエル・ハニー
    イ・ソヨン ジョン・ドンファン クム・ボラ

マザー・テレサ

シャーロット・グレイ著
橘高弓枝訳 


国家の品格

藤原正彦著

ユーゴスラビアのスコピエで三人兄弟の末子として生まれたアグネス・ゴンジャ(後のマザー・テレサ)は敬虔なカトリックの家庭で幸せに育ちました。9歳の時に父が亡くなり家計は苦しくなります。兄や姉はそれぞれの道に進み、文才のあったアグネスは作家になるだろうと期待されていましたが、14歳の時にはすでに、将来宣教師になってインドに行くことを決めていたのです。苦労と勉強の後、修道女になったアグネスはテレサと改名します。やがてダージリンに、後にカルカッタに移り多くの病人や貧しさに出会いますが、ロレット修道院で19年間を過ごしました。この間にガンジーの塩専売法反対(貧しい人にも塩は必要と主張する運動)への迫害や第二次世界大戦による飢饉がインドに起こります。女学校の校長をしていたテレサは子供たちのために食料品を集めることに必死でした。40歳になったテレサは修道院の外に出て、スラムに入り最も貧しい人たちのために働くことを決意したのです。

マザー・テレサの献身的なお姿はテレビなどでよく拝見していましたが、伝記を読んで彼女の人生の軌跡をより詳しく知ることができました。インドでの救済活動を始めるまでに20年近くも地道な修道女生活を送り、スラムで働くことがどれだけ危険で、周囲の大変な反対があったことも初めて知りました。一口にスラムで働くと言っても、病人を収容して、空腹の人々に食べ物を与えることは容易ではありません。マザーはすべての活動は奉仕ではなく、神様のために行い、神様から大きな力を頂いたから、成し遂げられたのだと言っています。お金がなくなっても必ず誰かが寄付をしてくれて、大きな家をゆずってくれて病院になり、多勢の人がマザーの仕事を手伝ってくれます。最も悲惨な「死を待つ人の家」では愛と平和に包まれながら、施設をわが家として最後の時を迎えられるように看護をします。「苦しむ人の中にイエス様の姿を見るのです」がマザーの口ぐせでした。今日ではハンセン病も決して不治の病ではなくなりました。病気には必ず薬と治療法があるけれど、自分はだれからも望まれていないと感じる病ほど孤独で深刻な病はありません。愛情のこもった手厚い世話がなければ決して治らないでしょう。

マザーが来日された時、日本は経済的に豊かだけれど、人に対する思いやりや優しさに欠けていると言っておられます。経済大国と言われながら、日本の社会福祉が欧米諸国に比べてずっと遅れていること、行政の姿勢にも貧しい人、困っている人への配慮が少ないと言っていました。教育や知識が豊富でも、それを人や社会のために生かさなければ意味がないのかもしれません。私はマザーのような生き方はできないけれど、少しでも彼女の精神は見習いたいです。身近に困っている人がいれば手を差し伸べたい、私も困っている時はやはり助けてもらいたいです。意外だったのが、マザー・テレサのような方は近くで拝見すると聖女のように神々しく、清らかな感じのする方だと思いましたが、とてもお話好きでいつもユーモアを言って場を和ませるような女性だったそうです。人生は闇ではない、どんな状況になっても、希望を失わないで明るく生きるとい気持ちがあったからでしょう。絶望の時にも、神様をけっして人を見捨てないという信念が彼女を支えていたのだと思います。今でも「神の愛の宣教者会」ではマザーの意志を継いで多勢の人々が働いています。マザーの活動は映画「野のユリ」を思い起こさせてくれます。

オーストリアで知り合ったユン・ジェハ、パク・ウニョン、フィリップ・ローゼンタール、ソン・イナはソウルで仕事仲間として生活する。過去の思い出と共に4人の愛と友情が交錯する。

「秋の童話」「冬のソナタ」「夏の香り」はそれぞれの季節感とドラマがマッチしていましたが、「春のワルツ」もまた春らしい癒しのドラマです。インパクトは他の3作品と比べると弱いかもしれませんが、青山島(チョンサンド)の美しい菜の花畑に象徴されるように、チェハの心の傷がウニョンと出会うことで癒されていく様子が心地良いです。オーストリアでの4人の出会いから始まって、チェハ(スホ)とウニョンの子供時代が何度もフラッシュバックされ、現在のソウルでの愛と友情、両親との葛藤が丁寧に描かれています。韓国ドラマは三角関係になっても、最後は相手の気持ちを思いやって身を引くところが(現実にはなかなか難しい‥)儒教の国だなぁと思います。フィリップの優しさと男気がいいですね。ピアニストとして大事に育ててくれたユン夫妻を愛するチェハですが、どんなにひどい仕打ちをされても心のどこかでは実の父親への思いを捨てられない気持ちが何とも切ないです。

ドラマは癒しとともに許しをも描いています。チェハの父親はウニョンの母親を事故死させてしまうひどい男です。その事実を知ったウニョンの驚きは大変でしたが、その後のチェハのとった行動に全てを許します。まさに春のような暖かさで‥。チェハ役のソ・ドヨンは控え目だけど、内面の葛藤を(撮影途中のアクシデントにも負けないで)上手に演じていました。テーマ曲も歌っています。ウニョン役のハン・ヒョジュは優しい笑顔が素敵でチェハの苦しみを包んであげるはまり役の女優さんです。チェハの育ての母を演じたのが「チャングム」でも養母を演じたクム・ボラですが、全然違う母親像にびっくりしました(笑)ウィーンやザルツブルグの雪景色、青山島のハート海岸、鮮やかな黄色の菜の花畑、監督のモダンなオフィス、リュ・シウォンの実家など映像の素晴らしさ、出演者のファッションも見逃せません。子供時代の回想シーンになると流れるのが「愛しのクレメンタイン」で(世界各国で訳し方が違うそうですが)日本では雪山讃歌として知られていますね。クラシックのピアノ曲が使われ、美しいせりふと繊細な心が感じられる上品なドラマ作りはユン・ソクホ監督の真骨頂。四季シリーズは私にとっていつまでも心に残る作品になりました。