レ・ミゼラブル

1823年11月の冬の夜、ウィーンの街で一人の老人が自殺をはかった。
その人の名はサリエリ。病院で彼は“同じ宮廷作曲家として活躍していた
モーツァルトを殺したのは私だ!”と叫んでいた。やがて訪れた神父に
自分とモーツァルトの関係を話始めたが、それは驚くべき内容であった。
サリエリと天才モーツァルトの精神的死闘が描かれる名作です。

モーツァルトについては、伝記や「モーツァルトの手紙」上下巻を読んだりして
おぼろげですが、彼の人物像などは知っていました。彼は筆まめな人で
家族や友人にたくさんの手紙を送っています。逆さま言葉や(こちらも天才!)
卑猥な文章も良く書いていますね。大司教との軋轢、大司教との決裂という
手紙もあり、今回興味深く読み返しました。映画は主役をサリエリにして
モーツァルトの音楽と自分の音楽を比較して、天才と凡人を対比させて
描いているところが面白いです。少年の頃の天才ぶりはさらりと触れていて
26歳の一人前の作曲家として活躍する姿がまばゆいほどに輝かしく
描かれています。音楽から離れている時は少年のように無邪気ですが
作曲をする時は神様が舞い降りてきたかのような天上の美、至福の音楽を
創り出すモーツァルト…このアンバランスな人間性が魅力でもありますね。

皇帝ヨゼフ二世が「フィガロの結婚」が国民感情にそぐわないという理由で
上演を反対すると、“愛”をテーマにしている作品だからと公演を切望するあたり
職人音楽家というよりは自由を好む彼らしいエピソードです。それにしても
皇帝はモーツァルトの作曲に対して“音が多すぎる”などとクレームをつけるなんて
度胸がありますね(笑)コロレド大司教は、コンサートに遅刻したモーツァルトを叱ると
“いつでもクビにしてください”と言って、自由を求める彼らしい生き方がよくわかります。
ショパンはピアノ曲しか書いていませんが、モーツァルトはピアノ曲、オペラ、交響曲
室内楽曲と幅広く作曲していて、どの作品も名曲なのには驚かされます。
コンスタンツェは良妻か悪妻かと議論も分かれていますが、映画では彼女の
献身的な愛が描かれて微笑ましいです。22歳で母親を亡くしているので父親は
一心同体のような存在だったのでしょう。凡人が精魂込めて作っても天才には敵わない。
サリエリのモーツァルトの才能に対する嫉妬心は理解できるような気がします。
亡くなる35歳の病床で「魔笛」と「レクイエム」が作られたとは!
「レクイエム」は、まるで自分のための鎮魂歌でもあるように思います。
純粋で自由を愛する彼が紡ぎ出す音楽…自由な音楽と言えば
ロックにも通じるのかもしれませんね。

レベッカ

監督 ビル・アウグスト
出演 リーアム・ニーソン
    ジェフリー・ラッシュ
    ユマ・サーマン 
    クレア・ディーンズ
    (マンダレイ 1998)

レ・ミゼラブル

監督 ジャン・ポール・シャノワ
出演 ジャン・ギャバン
    ベルナール・ブリエ 
    ダニエル・ドロルム
    セルジュ・レジアニ
    ブール・ヴィル
    (仏 1957)

アマデウス



フランス、トゥーロンの徒刑場で19年の刑期を終えたジャン・バルジャンは
仮出獄の身でありながら、教会で銀食器を盗んでしまう。司教の愛を受けたバルジャンは、9年後ヴィゴーの市長になっていた。しかし警察署長のジャベールは、いまだバルジャンを執拗に追跡していた。

良くも悪くも、アメリカ的エンターテイメントな作品に仕上がっていますが、マンダレイ(ミャンマーの都市)の作品なんですね。2時間13分とコンパクトにまとめているので、ストーリーは省略しているところも多かったです。マリユスのキャラクターは弱いですし、エポニーヌは出てきません。ファンティーヌの可哀そうな状況や、バルジャンがコゼットを育てることになったいきさつなどは、映画を観てよくわかりました。そしてバルジャンが悪人から善人になるきっかけになった司教の言葉は「兄弟よ、お前は悪と縁を切った。恐怖と憎しみからお前を救い、神の御手に君を返す」ですが、この場面はいつも涙が出てしまいます。19年間も刑務所に入っていれば、誰でも心に憎しみを抱いてしまうと思います。バルジャンは司教の無償の愛で魂が救われたのですね。その後も、困った時には教会や修道院に逃げて、助けられているのも印象的です。

フランス革命の頃は、まだ女性の地位が低くて、自立するのが大変な時代だったのですね。未婚の母に対する偏見も強くて、ファンティーヌのつらい立場が、見ていて悲しかったです。でもこの作品のコゼットは、自分の意志を持った女性として描かれているのが、新鮮です。マリユスとコゼットの出会うシーンは、ロミオとジュリエットを思わせますが、これはクレア・ディーンズが演じているからかしら?リーアム・ニーソンは、寡黙というよりは都会的なセンスがあって、時々笑うし、すぐ怒鳴ったりして血の気の多いバルジャンでした(笑)ジャベール役のジェフリー・ラッシュが執拗にバルジャンを追う警察官を見事に演じています。バルジャンを捕えることに執念を燃やして、凄みさえ感じられます。コゼットを連れて城壁を登って逃げるシーンや、セーヌ川に身を投げるシーンなどは現代風な派手な演出でどきどきしました。この作品ではジャベールがバルジャンに「お前は自由だ」と言って身投げをするシーンで終わっていますので、愛は法律よりも強いというのが作品のメッセージなのでしょうか。バルジャンの慈悲の行いは、後に彼が困った時、必ず助けらていますので、「情けは人の為ならず」は真実なのかもしれませんね。

身寄りのないキャロラインは1年前にヨットの事故で妻のレベッカを亡くした
大富豪のマキシム・ド・ウィンターと知り合って結婚をする。マンダレーの彼の
大邸宅には今もレベッカを敬愛する家政婦のダンヴァース夫人がいるが
キャロラインを妻と認めてくれない。やがて遭難したヨットが発見される。

ロマンティックだけれど、恐怖が迫ってくるようなストーリー展開に、最後まで
どきどきさせられましたね。幸せな新婚生活を送っているキャロラインが
謎に包まれた今は亡きレベッカの謎を知ることで、どんどん不安になっていく
様子に引き込まれます。ダンバーズ夫人も味方ではないので孤立感は
深まるばかり。所在不明のようなマンダレーのお屋敷も、あまりに広大で
ちょっと不気味ですね。でもヨットが見つかってから、キャロラインがどんどん
強くなっていくところが爽快です。マキシムから真相を聞いても、黙っていれば
分からないと言って、彼を守りたい女心がひしひしと伝わってきます。
「こんな私でもまだ愛しているのか?」の問いに「ええ、もちろん」と応える
彼女に感動してしまいます。マキシムが抱えている心の闇を救いたい一心…
愛は人を強くしてくれるのですね。審査会も傍聴して逞しい女性になっていきます。

この作品は何と言っても、主演二人の存在感が大きいと思います。ドライブ中の
マキシムとキャロラインの会話や表情など、どのシーンも絵になりますね。
ローレンス・オリビエの感情を抑えながらも、絶妙な心理表現が素晴らしくて
さすが名優ですね。舞台俳優さんらしく、重厚な演技が印象深いです。
ジョン・フォンテインの細やかで女性らしいしぐさは、憧れますね。マキシムに
きついことを言われると、すぐ涙を流すところなど、強いアメリカ女性のイメージと
違って、淑やかで愛らしいです。美しくて気品のある素敵な女優さんです。
ダンヴァース夫人を演じたジュディス・アンダーソンの鬼気迫る迫真の演技は
素晴らしかったです。レベッカの従兄を演じたジョージ・サンダースもとても良い味を
出していたと思います。ヒッチコックの演出の巧さも随所で光っていますね。
最初は断崖絶壁でのスリルのある出会いがあって、その後ホテルのロビーで
ロマンティックな再会があるというように、とても凝っていて洒落ていますね。
カーテンを揺らしたり、“R”の文字を有効的に見せることで恐怖感を出しています。
真相は謎に包まれたドラマチックな最後ですが、ハッピーエンド?ですよね。

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ローレンス・オリヴィエ
    ジョーン・フォンテイン
    ジョージ・サンダース
    ジュディス・アンダーソン
    (米 1940)

19年間の服役を終えたジャン・バルジャンは、教会の銀食器を盗むが、司教の
愛に救われ、人生をやり直す決心をする。市長になったマドレーヌ(バルジャン)は
工場長としても人望を集めていた。可哀そうなファンティーヌの娘コゼットを育てる
バルジャンは幸せな日々を送る。やがてパリでは王制と共和制の戦いが始まる。

3時間余りの大作で見応えがありました。全体にゆったりとしていて、上品な語り口
なので、静かに感動できました。何と言っても、ジャン・ギャバンの存在感が大きくて見事にバルジャンを体現していたと思います。特に市長になってからの寡黙な中にも優しくて思慮深いバルジャンが素晴らしいです。司教も温厚な人柄で「私は金の力は信じぬがこれは君の役に立つ。今の君は善人だよ。私は君の魂を買う」と言うシーンは心に残ります。道に迷った時、司教の言葉が蘇って、バルジャンの生きる指針となっているのですね。刑期を終えたバルジャンが、ジャベールに執拗に追いかけられるのは、少年のお金を取ったからなのですね。やっと謎が解けました。ファンティーヌ、テナルディエ夫妻、マリユスのキャラクターが詳しく描かれているので、彼らの人物像もよく分かりました。エポニーヌとガブロシュがテナルディエの子供ということも初めて知りました。マリユスは帝政派の家柄だけれど、共和制の仲間に入るのですね。歴史は弱いので、にわか勉強をしましたが、当時のフランスの情勢も少し知ることができて良かったです。

アラスの裁判所のシーンも大好きです。バルジャンが黙っていれば、誰にも知られないで罰を受けることもなかったのに、神の前で偽る自分が許せなかったのですね。後半、王制と共和制の内戦が激しくなっていく中での、バルジャンとジャベールの対決、マリユスとコゼットの恋、テナルディエ夫妻、エポニーヌ、ガブロシュの動向に目が離せないです。マリユスを背負って、下水道を逃げるシーンは「第三の男」を彷彿とさせてくれますね。コゼットを迎えに行く場面も、どきどきしながらも温かい気持ちになります。コゼットを育てることが彼の生きがいになっていたのですね。だからコゼットがマリユスと結婚してしまうと、とたんに生気を失って死んでしまったのですね。花嫁の父の心境ですね。最後に人生で大切なことは「愛すること」と教える場面は感動で涙が出ました。ジャベールが自殺をしたのは、良心と義務の板挟みになったからでしょうが、最後まで慈悲の心を理解できなかった哀れな人物かもしれません。パンを盗む→人間の原罪、司教に助けられる→神との出会い、社会貢献→慈悲の心、ジャベールとの対決→愛と法の対決、周りの人々を幸せにする→魂の救済を現わしているのかしらと思いました。

監督 ミロス・フォアマン
出演 F・マーリー・エイブラハム
    トム・ハルス
    エリザベス・ベリッジ
    ロイ・ドートリス 
    (米 1984)