ディパーテッド
THE DEPARTED
監督 マーティン・スコセッシ
出演 レオナルド・ディカプリオ マット・デイモン 
    ジャック・ニコルソン マーク・ウォールバーグ
2006・米
★★★★


ボストン南部サウシー地区に生まれた二人の警察官。一人はギャングへの極秘潜入官、もう一人は特別捜査官に配属されたギャングのボスへの内通者となる。やがて相手の存在を知った二人の死闘が始まる。香港映画「インファナル・アフェア」のリメイク作品。

「インファナル・アフェア」は評判が高かったので劇場で観ましたが、苦手なギャング映画の中では、味わい深い内容でしたが、やはり苦手な分野です(笑)「ディパーテッド」はスコセッシ監督、レオとマットの共演ということで観ました。リメイクと言っても、潜入捜査をする二人のプロットが同じで、全然違う作品になっています。「インファナル〜」は警察対マフィアの抗争だけれど、こちらはもっと大きな領域、白人と黒人、アイルランド系移民との対立など多民族国家の争いが描かれ、暴力行為のすさまじさには驚かされます。コステロのような人物が現実に裏社会に君臨しているのが恐いです。そして「インファナル〜」は仏教思想が、「ディパーテッド」はキリスト教が根底に流れているのも興味深いですね。The Departed(信心深き故人)は天国に召される‥これはカトリック教会で使われる言葉だそうです。故ケネディ大統領もアイルランド移民の子供で、彼がカトリック教会を足掛かりに国家権力を得た歴史にも触れられています。

スコセッシ監督は暴力を描くことで(現実はもっと残酷なテロ行為が行われていますが)9・11以降のモラルを失った絶望的な世相を映し出したかったのだと思います。バイオレンスは肉体的だけでなく、精神的な暴力もありますけれど。人間はどこかで相手と違うところを見つけ優劣をつけて、差別や迫害をするのは有史以来続いています。殺伐とした社会の中でも、クイーナン警部とビリーの父子のような信頼関係や、ビリーとコリンが同じ精神科医マドリンに恋心を抱くシーンはほっとさせられます。こんな社会だからこそ心を許せる友人の存在は大切ですね。マドリンがコリンの前をす〜っと通り過ぎていくところは「市民ケーン」の最後のシーンとそっくり!古い名画の保存に尽力されているスコセッシ監督らしく粋ですね。オリジナルは仏教の無間地獄を描いて味わいがありましたが、リメイクは米国らしいサスペンスタッチの色濃い内容でした。

                                         





ALWAYS 続三丁目の夕日 
監督 山崎貴 
出演 吉田秀隆 堤真一 小雪 薬師丸ひろ子 
2007・日

★★★★☆


昭和34年、東京夕日町三丁目の人情劇。「ALWAYS 三丁目の夕日」の続編。

続編はどうしても気負いがあったり派手になりがちですが、全然そんなことはなくて、昭和30年代の街並み、人情が蘇った感動作に仕上がっています。鈴木、茶川家を中心に夕日町の人々のその後の生活が笑いと涙で描かれていますが、監督も出演者も若いのに、この時代のことをよく理解できているな〜と感心します。映画なので多少の誇張はあるでしょうが、確かに近所付き合いは今よりありましたし、忙しい時はお隣さんで子供を預かってくれました。そしてこの時代は戦争の傷を引きずっている人が多くて、則文の戦友の話はファンタジックに描かれていて、より切なさを感じました。福士誠治さんの配役はぴったりですね。芥川賞騒動の中での寸借詐欺行為は許せないけれど、まだ更生の余地が残っているので救われます。それにしても懐かしいのはロール式脱水の洗濯機!私もよく手伝わされましたよ(笑)牛乳ビンや昔のアルバム、ドレスとお揃いのヘアバンドとか‥。茶川とヒロミの恋、監督はこのお話を最後まで描きたかったから続編を作ったのではないかと思うほどの力の入れようですね。お金や名誉よりも大切なもの、現実は厳しいけれど、愛情があれば困難も乗り越えられると信じたいです。俳優さんはそれぞれがはまり役で素晴らしいですが、吉岡秀隆さんの味わいは、続でもやはり心に残りましたね。VFXも物語とマッチしていて、高速道路のない日本橋や羽田空港、特急こだま号なども見事に再現されていました。現代人の失われつつある人情や情感を忘れないでほしいという監督の思いが伝わってきます。

 


かもめ食堂
監督 萩上直子
出演 小林聡美 片桐はいり もたいまさこ ヤルッコ・ニエミ
2005・日 

★★★★


フィンランドで日本女性サチエが経営する‘かもめ食堂’にやって来る人々の交流が優しく描かれる

もっと賑やかで楽しい作品だと思っていましたが、秋風のような爽やかな心地良さが残りました。おにぎりやランチが美味しそうですし、プランターやキッチン用品、食器などのインテリアが素敵ですね。サチエがなぜフィンランドで食堂を始めることになったのか、ミドリやマサコが来た目的など多くは語られないところが謎めいていいです。利益優先でなくて、お店を気に入ってくれる客を大事にしたい思いは好感が持てますね。異国で気になってる歌詞を完璧に教えてもらったら、きっと親しみを感じるでしょうね。同じ日本人同士分かり合える、あうんの呼吸みたいな?私は「エイトマン」が大好きでした(笑)サチエ、マサコ、ミドリの静かな会話もよそよしくなく、でも馴れなれしくない微妙な距離間が清々しいです。もたいまさこさんは「ALWAYS」とかなり印象が違いますが、こちらの役が素顔に近い方のように思います。さすが女優さんですね〜。「過去のない男」のマルック・ペルトラの出演は嬉しい驚きです。サチエは食堂経営という目的があるから、語学も勉強しているし、プール通いで体力もつけて、経営哲学もちゃんと持っている女性です。うまくいかなければやめれば良いと、逃げる道を作っているから心に余裕を持って生きています。どこの国でも人の気持ちや悩みは同じなんですね。人間関係がうまくいくのはみんな願っていることだけど、なかなか難しい。かもめ食堂は理想空間かもしれませんね。北欧はまだ訪れた経験はないですが、落ち着いた自然はとても憧れます。事件や恋愛がなくても、ゆったりとした描写に引きつけられる不思議な映画です。

クィーン
THE QUEEN
監督 スティーブン フリアーズ
出演 ヘレン・ミレン マイケル・シーン ジェイムズ・クロムウェル
2006・英 仏 伊
★★★★


1997年8月、パリで元ダイアナ妃が亡くなって10年が過ぎる。当時のロイヤル・ファミリーの混乱とエリザベス女王をサポートする若きブレア首相の行動が実際の映像を織り交ぜながら描かれる。

英国王室にはそれほど興味はなかったですが、ダイアナさんのニュースはいつも興味深く見ていました。御成婚から様々な話題がありましたが、パリでの事故のニュースはやはり衝撃でしたね。バッキンガム宮殿の前にあふれた花束やダイアナの死を悼み悲しむ国民の姿は記憶に残っています。国葬が行われたウエストミンスター寺院には、生前親交のあったパバロッティやスピルバーグ監督、エルトン・ジョン、トム・ハンクスなどの姿も映っていました。映画はどこまでが真実なのかはわかりませんが、もう民間人となったダイアナの死に冷淡なエリザベス女王をブレア首相がこんなにもサポートしていたことを初めて知りました。ブレアは労働党党首だけれど、王室擁護派なんですね。あの時、確かにしばらく半旗が掲げられなかったのですが、こういういきさつがあったとは!チャールズ皇太子の悲しみは映像から伝わってきましたが、フィリップ殿下の態度はちょっと意外でした。女王は重大なことは夫や皇太后に相談しているところは微笑ましいです。皇室といえども、ファミリーの在り方は私たちと同じなんですね。

鹿を逃がしてあげるシーンはとても美しくて印象的でした。鹿は女王、ダイアナのどちらを象徴しているのでしょうか?王家の人ではなく、民間の客人に撃たれたというところがミソですね。エリザベス女王は約48年間、英国の君主として務められた中には、自分のことは抑えてきた部分もあったと思います。私たちの想像以上の心労があるでしょうが、ダイアナの事故は彼女の生涯でも大きな苦しみのひとつであったと思います。ヘレン・ミレンは素顔も何となくエリザベス女王に似ていますね。振る舞いや無表情の中の優しさや悲しみ、喜びの表情が素晴らしいです。鹿を見つめる時の涙、その涙をマフラーで拭く仕草やバッキンガム宮殿で、花束に書かれた文字を見て悲しむのに、国民に向けられた顔は笑顔というパフォーマンスの妙。冒頭、肖像画のモデルになっている時に横顔からカメラ目線になる場面は引き込まれましたね。ブレアを演じたマイケル・シーンは明るい印象で好感がもてました。ダイアナだけは御本人の映像を使っていたのは、彼女の存在が大きかったことを物語っていると思います。深刻な内容なのに、ユーモアと上品さで描かれて、後味の良い作品に仕上がっていると思います。

ブラッド・ダイヤモンド
BLOOD DIAMOND
監督 エドワード・ズウィック
出演 レオナルド・ディカプリオ ジャイモン・フンスー ジェニファー・コネリー
2006・米
★★★★☆


アフリカ西部のシエラレオネ共和国では1991年から10年間、内戦が続いて「ブラッド・ダイヤモンド」は「紛争ダイヤ」と呼ばれ、戦争の資金源になっていた。ダニー、ソロモン、マディーはそれぞれの思いを巨大なピンクのダイヤに託す。上質な人間ドラマのエンターテイメント。

女性は宝石が大好きで、特にダイヤモンドの輝きを見ると手に入れたいと思うのは自然な気持ちですね。私も宝石は好きですが、まあ持っていなくても全然平気な口ではありますけれど。映画を観て、美しいダイヤが消費者の手に渡るまでに多くの人々の命が奪われ、血が流れていたことを知り驚きました。ダイヤのためなら平気で殺人をするEUF(反政府軍)の存在は恐怖です。シエラレオネの内戦では20万人の国民が犠牲になり、7千人以上が少年兵なったという事実があります。戦争の悲惨さとアフリカがいまだに抱えている多くの問題を目の当たりにしていろいろ考えさせられました。映画はドキュメンタリーのような作りなので「ナイロビの蜂」を思い出しました。ダニーはアフリカ生まれの元傭兵で、ダイヤを手に入れるためなら殺人も平気でするような死の商人です。ピンクダイヤがあれば今の仕事をやめて、アフリカから脱出できると考えています。慎ましくも平和に暮らしていた漁師のソロモンは、一瞬にして家族と離れ々になり、ダイヤ採掘場へ送られ、息子は洗脳され少年兵にされます。ピンクダイヤを見つけたソロモンは、ダイヤと引き換えに家族を取り戻したいと願っています。女性ジャーナリストのマディーは紛争ダイヤの取材をして真相の究明をしています。

それぞれダイヤへの思わくが違う三人ですが、行動を共にする中で、衝突をしながらも、友情が芽ばえる過程がいいですね。特にダイヤが埋められている場所を探す中で、ソロモンの家族への強い愛情に触れ、ダニーの心に変化をもたらして感動へと導かれるラストは涙が出ました。2000年には、市場のダイヤモンドが紛争ダイヤでないことを証明する制度「キンバリープロセス」が設置されましたが、少しでもダイヤ市場が純粋な消費活動の場になるように願うばかりです。監督のエドワード・ズウィックは、ダイヤの紛争がなくなるためには、消費者がダイヤにかかわった人たちの尊厳と命の叫びを知らなくてはいけないとメッセージを投げかけています。少年兵の受けた心の傷は計り知れないと思います。TIAはThis is Africaの略だというダニーの言葉が記憶に鮮明に残ります。